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だが、バブル崩壊後、日本の金融機関を取り巻く状況はきびしく、合理化の一環として海外拠点の閉鎖がとりざたされるようになった。
本社のそうした動きはロンドン法人にも伝わって来た。
私たちは、閉鎖の対象にならないよう精一杯努力して利益をあげたが、それは会社全体から見れば微々たる数字に過ぎなかった。
残念ながら徐々に、閉鎖をまぬがれることが出来ない情勢になって来た。
そんな折り、私を雇ってくれた副社長がイギリスの銀行に移ると言う。
私よりひとつ年長の彼は、これまでの仕事の総決算として、国際金融の最前線で、多くのスタッフを縦横に駆使して、培った経験と能力を思い切り発揮出来る機会をうかがっていたのだ。
彼は「一緒にやらないか」と、私を強く誘ってくれた。
まことに有り難いことだった。
私は現役を退くには早すぎる。
何よりもアナリストとして、国際金融市場の最前線に身を置いていたかった。
九月、五十歳の誕生日を間近にした私は、再びロンドンの外資系銀行に転職したのであった。
その中に大きな鞄をもっている若い男がいて、私の目を引いた。
「お預かりしましょう」と店のウェイターが言うと、その男は、「いや、これには大事なものが入っているから」と後生大事に抱えている。
それが何やら異様な感じであった。
はなしに聞いていると(声が大きいから嫌でも耳に入る)、彼らはある大企業の駐在員たちで、その夜は日本に帰任する社員のための送別会だと言う。
席に着くと、まずビールで乾杯し、次にウィスキーになった。
そして、わいわいと談笑の輪が広がり始めた時、くだんの若い男がやにわに大きな鞄をあけた。
そして、集団の一人一人に何かを素早く手渡した。
「おうおう」「これだこれだ」「待っていました」などと奇声をあげながら、他の連中はそれを受け取った。
受け取ると彼らは一斉に上着を脱ぎ、ネクタイをはずし始めた。
狭い店の中の出来事だ。
周囲の客は、私も含めて、一体何が起きるのかと見ている。
彼らはまず、はずしたネクタイで頭に鉢巻きをした。
そして、若い男から渡されたものを、ワイシャツの上から着た。
それは、ハッピであった。
紺色の字に赤く彼らの会社名が染め抜かれていた。
つまり、全員そろいの社名入りのハッピに、ネクタイの鉢巻きという姿になったわけである。
それで彼らの無礼講の準備が完了したらしい。
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